夫婦決闘法
「…死が二人を分かつまで、生涯添い遂げる事を誓いますか?」
神父がオレたちに確認を取る。
そして、二人揃って言う。
「「誓います」」
この瞬間、オレは真知子と夫婦になったのだ。
そして…。「では、指輪の交換をお願いします」
そう言われて、お互いの指に結婚指輪を通す。
シンプルなデザインだが、それがまた良い味を出している。
真知子も同じデザインの物を着けている。
まるで、婚約指輪と結婚指輪を同時に着けた気分だ。
お互いに付け終わった後、
「これで夫婦だね」
「ああ」
「ふつつかな女だけど、これからもよろしくね」
「こちらこそな」
そんな会話を交わした後、最後にもう一度キスをする。
こうしてオレたちは晴れて夫婦となった。
その後、オレたちが式場を出る時には既に外には報道陣が殺到していた。
当然だろう。
この後、どちらかが死ぬまで殺し合うのだから…。
数年前『夫婦決闘法』が施行された。
人口減を狙う政府が超党派で可決した法律だ。この法律により、結婚した男女は必ず一対一で戦う事が義務付けられる。
ルールは非常に単純明快。
1,相手の命を奪うまで戦い続ける
2,決着をつける方法は相手の命を奪うのなら何でもあり
3,勝者には敗者から全て奪う権利が与えられる。
4,一度始めたら途中で止める事は出来ない
5,もし相手を殺してしまっても罪に問われる事はない。
6,決闘中に死亡した場合、その者は死亡扱いになる
7,決闘以外で相手を死に至らしめる行為は禁止
8,決闘時に負った怪我や病気は治療費の負担だけで完治する
9,決闘中の負傷が原因で後遺症が残る場合は国が負担する事になっている
10,決闘時の映像は全て公開される。
11,決闘時に巻き込まれた第三者への損害は全て国が補償する
12,決闘中の暴力行為は一切問題にならない
13,決闘で死亡した者の財産は全て国が管理する
…いたれりつくせりだ。
オレたちはこの制度を利用して結婚することにした。
つまり、これから始まるのは本物の結婚式ではない。
ただ、婚姻届を出すだけのものだ。
それでも、こんな世界でちゃんとした式は挙げられないと思っていただけに嬉しい誤算だった。
オレたちの他にも多くのカップルが参加していて、中には親族と思われる人たちもいた。
まあ、大半が他人のようだったが。
そして、ついにその時が来た。
「それではこれより新郎新婦による『夫婦決闘』を行います!」
司会の言葉と共に会場にいる全員が拍手喝采を送る。
オレたちも同じように手を叩く。
そして、オレはサバイバルナイフを、真知子は日本刀を構える。
「真知子、刀持つ腕が震えてるぞ?」
オレは意地悪く言った。
「しょうがないじゃない!初めての実戦なんだもの……」
彼女は不安そうな顔で言う。
無理もない。
彼女にとって今日が初めての戦闘なのだ。
緊張しないわけが無い。
「大丈夫さ、すぐに終わる」
そう言って彼女を安心させる。
「うん」
紳士服を着たレフェリーが合図を下す。
オレたちの決闘の始まりだ。
まず最初に仕掛けてきたのは彼女の方だった。
「死ねぇぇ!!」
雄叫びを上げながら突っ込んでくる。
初手から全力全開といったところか? しかし、遅い。
そんな攻撃に当たるほど甘くは無い。
半身になってかわすと同時にカウンターを叩き込む。ドスッ!という鈍い音を立てて脇腹に突き刺さった。
刃を抜くと同時に真知子が膝をつく。
(勝負あった)
真智子はそう思っていたかもしれないがそれは間違いだ。
オレはこの程度で終わるつもりはない。
さらに追い打ちをかけていく。
まず、頭を踏みつける。グシャッ!!頭蓋骨が割れる嫌な音がした。続いて喉に手を掛け思いっきり締め付ける。
「ガァ……ハ……ゲボォ!!!」
という苦悶の声が上がる。
苦し紛れだろうか、足を振り上げてオレの顔目掛けて蹴ってくる。そんな蹴り当たる訳もなくヒョイと避けた後、鳩尾に向かって正拳を突き出す。
みごとに命中したがダメージはあまり入っていないようだ。
(流石は武道家と言った所かな?)
感心していると真智子が倒れこむ。どうやら限界の様だ。だが、真知子がフラフラ起き上がり「ハッ!」っと叫ぶと全てのダメージが回復した。
そう、真知子は驚異的な回復力の持ち主なのだ。
過去にC-4爆雷とロケットランチャーを喰らい肉片に成り果てたが、そこから元に戻れる体質なのだ。これは、ある意味不死身の身体と言っていいだろう。だからオレたちは恐れず殺し合う事ができるのだ。
今度はこちらの番だ。一気に畳み掛ける。顔面、腹部、胸部の順に連続で殴っていく。一発、二発、三四五六七八九十。最後に首筋に強烈な回し蹴りを叩き込み吹っ飛ばす。だが、やはりダメージはそれほど無いらしい。真知子がゆっくりと立ち上がる。オレもそろそろ本気を出す事にしよう。
ポケットの中からライターを取り出す。その瞬間、観客たちから歓声が上がった。そう、これが本当の切り札だ。火を付ける。次の刹那、世界が炎に包まれた。そう、これが真の能力の一つ『炎上操作』だ。炎を操ったり、燃やしたりする事が可能な能力で応用次第では相手の傷口を燃やし止血することも可能なかなり汎用性の高い強力な能力である。ただ、その反面弱点も多く存在する。
まず一つは燃料が必要な事、そして二つ目に空気が無くなるとその効果を失うこと。
つまりこの場においては使いにくいという事になる。だから今まで封印してきたのだが、今回は例外だ。
これで真智子を倒せなくても殺せる確率はグッと高くなる。それに……。
オレの予想ではおそらく奴らは……。
案の定、真知子は苦しみ始める。そして全身から炎が噴き出し始めたところで大爆発が起こった。
ドオオオオン!!!凄まじい爆風と轟音が響く 中オレは勝利を確信したのだった。
だが…真知子の回復力を侮ってはいけない。
彼女は水爆実験中のビキニ環礁に迷い込んで細胞レベルまで水爆で粉砕されても3日もあれば回復するのだ…デッドプールか?オレは思わず突っ込んだ。そして、今度こそ完全に息絶えたかと思った時だった。
真智子が立ち上がった! いかん!油断し過ぎた!!そう思った時はもう遅かった。
既に真知子は目の前に迫っていたからだ。
(マズイッ!?避けられない)反射的に腕を出してガードの姿勢を取る。すると……ゴキンッ!という骨が砕けるような音とともに激痛が走る 何が……起こったんだ……? よく見ると右腕が折れている! まさか、今の攻撃を防げなかったのか……!……そんな馬鹿な!?
「油断大敵よ…ダーリン」いつの間にこんなに接近されていたのだろう……まるで見えなかった。それほどまでに彼女は速かった。だが、それならばオレも負けていないはずだ。なぜ勝てない?答えは簡単だ、単純にパワーが違い過ぎるのだ。
彼女の一撃を耐えられるほどの肉体が無いのだ。オレには。
(どうすれば良い?)必死に考えるが名案は浮かばない。その時だった、 突然体が宙に浮かび上がったのだった。いや、持ち上げられたといった方がいいだろう。それは文字通りの意味で。
オレを片手で担ぎ上げながら「ごめんなさい、5・6回地面に叩きつけるだけだから…」という彼女の声を聞き意識が飛んだのだった。
次に目が覚めたときは救護室のような所にいた。辺りを見回すが誰もいない。腕は骨折は治っているようだがヒビが入っているらしい……まぁ、これくらいなら大丈夫だろう 立ち上がろうとするがまだふらつく。
「あら、生きてたのね」不意に背後から声を掛けられ振り向く。そこにはあの彼女がいた、どうやら心配して見に来てくれたようだ。「……あぁ、まだ少し痛むけど大丈夫だ」「良かった……貴方がいなくなると悲しいもの。だから私も強くならないとって思って。それはともかく結婚式場は半壊、私の親類縁者は全滅したわ」
と悲しげな表情で呟いた。オレは彼女に問いかける。「どうしてあんな無茶をした?」
「だって、ダーリンに認めてもらいたかったの。私はもっと強くなってあなたと一緒に居たいって事を。でもまだまだ足りなかったみたいだわ、やっぱり」
「なるほど…オレも強くなるよ」
一ヶ月後、退院したオレはリハビリもそこそこに山に籠もり、ヒグマの親子を殺して焼いて食べ巣穴を奪いその年を越した。そして更に2年後のある日……真智子と出会ってから7年の歳月が流れた頃……遂に真智子を倒したのだった。真智子は最後の力で
「愛している……だからどうか、幸せになって……それが叶わない願いだと分かっているけれど……」
と言い残し、事切れた。
もちろん復活するんだけど。オレの勝ちに代わりは無い。
そして、『夫婦決闘法』は廃止されオレと真知子含む多くの夫婦がいつまでも仲睦まじく過ごすのだった。
終わり。*1:真智子は人間じゃない
Public Last updated: 2021-12-22 04:11:29 PM
